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雅楽とは?
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 「雅楽」というと、結婚式や正月といったあらたまった場所に流れる退屈で
 堅苦しい音楽と思われていないでしょうか。しかしご覧になるとわかるように、
 極彩色の奇抜な舞踊があったり、繊細な器楽合奏があったりと、実は大変面白い芸能なのです。

 日本音楽史的に時代をさかのぼって見てみるなら、江戸時代の歌舞伎、
 室町時代の能・狂言、鎌倉時代の平家琵琶(平曲)、そして奈良・平安時代の雅楽、
 と時代背景を別にした芸能の一ジャンルであったわけです。
 現在においてさまざまな歌謡曲が流行っているように、平安時代には雅楽が
 大ブームだったのです。それどころか雅楽が上手な人は教養のある人だ、
 とまで言われていたのです。考えてみれば電気も水道もない時代、
 異国の音楽を操る演奏家がそのような評価を受けるのも当然だったのかもしれませんね。
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 さて、その源流は二つあります。中国・朝鮮を経て日本に伝わったシルクロード各地の
 民俗芸能と、日本に神話時代から伝わる天鈿女命の天岩戸神事にはじまる滑稽な神楽です。
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前者は、仏教伝来と深い結びつきがあります。仏様に最も合う音楽は雅楽である、と
 積極的に取り入れたのは聖徳太子であるとされていますし
 (実際雅楽の曲の中に聖徳太子をモチーフにした曲もある)、
 その後も遣隋使・遣唐使などによって大陸から非常に盛んに輸入されていたようであります。
 その一大ページェントは、752年の奈良・東大寺大仏建立落慶法要でありました。
 このとき、さまざまな国の音楽・舞踊が大仏様にお供えされたようです。
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後者においては、地方各地の民俗芸能が昇華して芸術に発展していった、といった
 ケースも少なくないようであります。現在の大嘗祭(即位礼)において、この祭礼のために
 創作される舞踊は全国から選ばれた二つの地方の芸能を元に創作されますが、
 これはその名残でありましょう。そして平安時代になると、外来の文化を取り入れるのが
 上手な日本人は外来風の音楽を自ら作曲・作舞するのであります。
 このころから、日本人はバイタリティ豊富であったようです。
 日本に外来の仏教と古来の神道の二つが共存してきたように、雅楽という芸能も、
 外来楽と古来のものを併せ持って現在に至っています。
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管絃(かんげん)
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ここに、雅楽の中の諸種目を挙げておきたいと思います。
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外来楽、特に中国から伝わった唐楽(とうがく)は多彩な楽器・体系だった
 音楽理論・舞を伴っており、雅楽の中心的ジャンルをなしています。
 「管絃(かんげん)」の演奏には唐楽のレパートリーを用いますし、
 洋楽でいうハ長調・イ短調などに相当する六つの調子も用意されています。
 これと同時に朝鮮から伝わった高麗樂(こまがく)は、「舞楽(ぶがく)」として
 常に唐楽とセットで扱われます。外来楽は唐楽・高麗楽他を合わせて100を超える
 レパートリーが伝承されています。
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 これに対して日本古来のものには、宮中の御神楽(みかぐら)、東遊(あづまあそび)、
 古代氏族伝承に由来する久米舞(くめまい)などがあり、雅楽の精神的支柱の役割を
 果たすものとして大切に伝承されています。
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そして平安時代には日本人自ら作曲した雅楽風歌曲があり、これは「歌物(うたもの)」
 といって貴族たちの流行歌のようなものでした。朗詠(ろうえい)・催馬楽(さいばら)
 などがあります。
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また雅楽は、意外と私たちの生活になじみのあるものなのです。といいますのも、
 雅楽の用語が現在普段の生活の場において使用されているのが数多くあるのです。
 例を挙げれば、「調子がよい」「音頭をとる」「打ち合わせ」「二の舞を踏む」
 「二の句が告げない」などなど。これは昔の日本人と雅楽との距離がいかに近かったか、
 ということを表す証拠でしょう。
 雅楽の演奏を見る際、自分とは全く関係のないもの、として見るのではなく
 昔の人のように身近なものとしてみてみると面白いかもしれません。
 もしかしたら前世のあなたは雅楽を演奏していたかもしれませんよ。 
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 舞楽 「振鉾三節」

雅楽楽器について
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 雅楽には、大きく見て3つのジャンル(種目)があります。
 ・音楽のみの「管絃(かんげん)」
 ・歌が主役の「歌物(うたもの)」
 ・舞が主役の「舞楽(ぶがく)」
 それぞれに楽器を持ち替えて演奏いたします。
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〜打楽器群
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 (1)鞨鼓(かっこ)
  楽団のリーダーです。リズムを整え、曲のスピードを調節します。
  スローテンポから始まって徐々に早くなる雅楽独特のリズムを統括して
  います。ですので、オーケストラの指揮者のような役割を担っている
  ことになります。
  ずん胴の形のこの鼓はインドで誕生したらしく、その後シルクロードで
  大流行したといわれています。演奏は、台の上に鞨鼓を横に寝かせて、
  両手に持った細長い桴で打ちます。両方からトレモロのようにまったり
  と打つ場合と、片面だけを厳しく打つ場合の二通りの奏法があり、曲目
  によって使い分けます。
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鞨鼓
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 (2)三ノ鼓(さんのつづみ)
  右方の舞楽(装束が青色の舞楽)は、朝鮮から伝来しました。
  中国から伝来した左方(装束が赤色の舞楽)の音楽とは楽器編成を異にします。
  鞨鼓に代わり右方のリーダーとして登場するのがこの「三ノ鼓」です。
  形は鞨鼓と違い、胴体がくびれています。起源は朝鮮の楽器「杖鼓(チャンゴ)で、
  大変よく似た形をしています。
  三ノ鼓とは「三番目の鼓」の意味で、この他に一ノ鼓・二ノ鼓があり、それぞれ大きさ
  が異なります(だんだん大きくなっていく)。
  ちなみに能の小鼓・大鼓はそれぞれ一ノ鼓・二ノ鼓を転用した、という説もあります
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 (3)太鼓(たいこ)
  雅楽専用の太鼓です。火炎を模した黒塗木枠の内に宙づりにしてありま
  す。本体には金箔地の上に天衣と戯れる三匹の唐獅子が描かれています。
  これを二本の桴で打ちます。左手で「ズン(図)」右手で「ドウ(百)」
  と続けて
打つのが基本の奏法です。
  また舞楽のときは、本来「大太鼓(だだいこ)」という特別な太鼓を用
  います。革の直径に人間一人立ってすっぽりと収まってしまうような
  巨大なもので、雷のような音がします。舞楽の雰囲気をかもし出す太鼓
  でありますが、とても持ち運べるようなものではありません。
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太鼓
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 (4)鉦鼓(しょうこ)
  金銅のおわんを、水牛の角のついた桴で打ちます。
  太鼓や鞨鼓の打つリズムに涼やかな彩りを添える、雅楽楽器唯一の金属
  製の楽器です。
  「鉦」と書いて「かね」と読む、お寺の仏事で使う道具があります。
  これを借りてきて雅楽の楽器にしてしまった、というのが定説のようす。
  ちなみに鉦に鼓の字がくっついていますが、革を張る「つづみ」の意味
  ではありません。
  「鞨鼓・太鼓・鉦鼓」と打ちもの3つを並べた語呂合わせでしょう。
  舞楽の際には太鼓と同じく巨大な「大鉦鼓(だしょうこ)」を使用します
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鉦鼓
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 (5)笏拍子(しゃくびょうし)
  歌物の際に使用します。歌物は句頭(くとう)と呼ばれる独唱者がソロパートを歌い
  だして、残りの人間が歌い合わせますが、笏拍子は句頭が持ち、パチンと乾いた好い
  音を打ち鳴らして拍子を取りながら歌います。
  神職が持つ笏を二つに割ったような形をしています。なお、朗詠では使用いたしません。
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〜絃楽器群
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 (6)琵琶(びわ)
  雅楽で使用する琵琶のことを特に「樂琵琶(がくびわ)」と呼んだりも
  します。琵琶といえば盲法師の平家物語が有名ですが、初めはやはり雅
  楽の楽器として日本に伝わりました。
  その起源は、シルクロードの西の果て・ペルシャにあるといわれていま
  す。シルクロードの終着駅である奈良・正倉院にある五絃琵琶はあまり
  にも有名です。
  四絃四柱(フレット)、しゃもじに似た桴で掻き鳴らします。
  合奏中は他の楽器の音に消されて聞き取りにくいかもしれませんが、
  右手の桴を優雅に回して間合いを取ります。
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琵琶
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 (7)筝(こと)
  雅楽で使用する筝のことを特に「楽筝(がくそう)」と呼んだりもし
  ます。「おこと」はふつう「お琴」と書きますが、本来は「お筝」が
  正しいようです。
  中国の伝説によれば、二十五絃の楽器「瑟(しつ)」を姉妹が奪い合い、
  結局2つに割ることになり、十三絃の方をもらった娘は中国に残り、
  十二絃の方をもらった娘は朝鮮に嫁に行きました。現在、中国の筝が
  十三絃で朝鮮の筝は十二絃なのはこの名残だそうであります。
  日本の筝は中国から伝わってので十三絃の方です。
  「竹かんむりに争う」というこの筝という字も、このようなことから
  なのでしょう。
  楽筝は生田流や山田流の筝とほとんど同じですが、指にはめる義爪と
  糸の太さが違います。
  雅楽の合奏の中ではリズムを刻む程度ですが、余計な動きは極力控え、
  弾かない間の右手は常に「鶏足(けいそく)」の形にして、ツンと止
  まっています。
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〜管楽器群
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 (8)鳳笙(ほうしょう)
  「しょう」とも言います。伝説の鳥・鳳凰が翼を休めている姿だ、と
  いわれるほどの姿の美しさからこの名があるのでしょう。形・音色・
  奏法すべてに優れていますが、常に焙って乾燥しておかなければその
  美しい音色がくぐもってしまう、非常にデリケートな楽器で、はっきり
  言って面倒な楽器です。
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  ★楽器の構造:17本の竹を組み並べて、根元を頭(かしら:黒塗りの
   部分)に差し込んであります。差し込んだ竹の根元にそれぞれ金属の
   リードが貼り付けてあり、頭から吹き込んだり吸ったりする息によっ
   て音が出ます。ハーモニカやパイプオルガンのような楽器です。A〜
   F#、2オクターブ近くの音域から15の音が設定されていて、組み合
   わせて和音を奏でます。
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鳳笙
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 (9)篳篥(ひちりき)
  今から千年前『枕草子』を書いた清少納言は、篳篥の音を「くつわ虫の
  鳴き声のようで、非常にうるさい」と酷評しております。演奏中の顔も
  ふぐのようにほほが膨らんでしまうため、あまり人の寄り付かない楽器
  です。
  ただし、この楽器がなければ雅楽の音色にならないほど重要で、メロ
  ディの主旋律も篳篥の担当になっています。正しい音を鳴らすのが大変
  難しく、昔から専門家が演奏してきました。最近、テレビなどで活躍中
  の東儀秀樹さんなども昔から代々の篳篥の家柄です。
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★楽器の構造:表に7つ、裏に2つの指孔をもつ本体に、リードを差し
   込んで吹きます。本体は竹製で、表面に桜の樺巻がほどこしてありま
   す。リードは葦の茎を乾燥させたものを押しつぶしたもので、吹く前
   にリードを開口させるために熱いお茶に浸します。
   音域はF〜A,1オクターブ+3度のやや狭い音域の間でメロディを奏
   でます。
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   狭い音域をダイナミックにカバーするために、音程の移行の間にうね
   るようなポルタメント奏法を挟みます。この奏法を「塩梅(えん
   ばい)」と呼び、篳篥の大きな味わいとされてきました。この塩梅は、
   音の動きが大きすぎず小さすぎず、丁度いいところが良しとされ、こ
   れが「いいあんばい」の語源となったようです。
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篳篥
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 (10)龍笛(りゅうてき)
  横笛(おうてき)とも呼ばれます。横に長い笛の形から、地と天を行き
  来する龍をイメージさせるのでしょうか。音色も、龍の鳴き声のように
  激しく太く吹き込まれます。また「笛の遠音がさす」といって、静かだ
  と2〜3km離れたところまで響くこともあります。
  鳳笙・篳篥と違い携帯に便利で、どこででもさっと取り出して吹けるの
  も龍笛ならではです。牛若丸も五条大橋でこの笛を吹いていて、弁慶に
  出会いました。
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★楽器の構造:7つの指孔と、やや離れて端の方に息を入れる吹口があ
   るだけの、原始的なごく普通の横笛です。樺を捲いたその姿は能管と
   同じですが、能管のようにヒシギは入れず、メロディを演奏します。
   その意味では篠笛に近いといえます。音域はE〜D、ほぼ2オクターブ
   たっぷりあります。
   篳篥が奏でる主旋律と時に一緒に、時に離れて、笛のメロディを奏で
   ます。
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龍笛
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 (11)高麗笛(こまぶえ)
  雅楽の演奏者で、横笛を専攻する者は龍笛のほかこの高麗笛・そして神楽笛の合計3本
  の笛を吹きこなさねばなりません。横笛に限っては、ジャンルごとに笛の種類が変わる
  のです。
  この高麗笛は朝鮮系の右方・高麗樂(こまがく)を演奏する際に用います。
  龍笛を小さく細くした形で、指孔が6つ、音色も龍笛と比べて細く可愛らしいものです。
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